2013年6月28日金曜日

閑話休題

 最近、周りで『家庭菜園』がブームです。
 
 家庭菜園、と聞くと、トマトとかなすとか、できれば直植えして、休日に草むしりして、水上げて肥料上げて、病気にならないように世話してあげて・・・・・・。

 と考えたときの肥料って、ふつう、市販ですよね??

 しかし。私の周りで家庭菜園に凝っている方は、そんな半端なことでは許さないんです。
 肥料は、自分で発酵させた有機肥料を作る。
 肥料だけではなく、植物賦活剤?とでもいうべき、葉っぱにスプレーして元気にしてあげるものも、病害を予防する『農薬』も、自分で作る。
 すごい人です。・・・・・・・・実は、このすごい人ってHさん。

 聞けば聞くほど手間のかかるこの作業、しかし、彼女は手間暇かけてテキスト通りに作り上げます。(この作り方、ワタシなんて、文章読んだだけで、ぱたんと本を閉じて化学肥料と農薬を買いに走っちゃいそうな面倒くささでしたが・・・・・。)

 作り上げたものを見せてもらったら、なにやらいかにも「キキそう!」などろりとした黒い液体。においをかぐと、一種『おいしそう』。
 発酵食品系の匂いなんです。
 あ、これって、材料を混ぜ合わせたもの、というより、有用微生物が発酵させたもの、なんですね??

 微生物、というと、最近私たちも手を染めています。微生物学屋さんが愛用する道具や培地の材料になる試薬も大概そろえました。
 ・・・・・培養、してみちゃおっか??
 というわけで、適当な培地の上に「どろりとした黒い液体」を少量薄く延ばして待つこと一晩・・・・。
 おお~~ぅ、生えてきた!!
なんて言っている間に、圃場の田んぼに水が入り田植えも完了。
小さなイネで水田の表面がかすかに黄緑がかって見えます。

 となると、これらがなんていう『微生物』なのか、知りたいですね。というわけで、Hさんに、現在遺伝子片を増幅して、配列を解析しようと実験中のヘテロシグマのサンプルの横にちょこんと加えて一緒に解析してもらっています。

 新手の生物系有機農薬だか肥料だか賦活剤だかができちゃったりして。

 と、冗談なのか本気なのかわからないことをおしゃべりしながら働いた1週間でした。

 
 

 

2013年6月21日金曜日

名前の問題

 今週は、論文紹介セミナーにむけて、論文探しを始めて、面白いものに行きつきました。
 
 『virophage=ヴィロファージ』。何なのかは漠然と知っていた、程度のものなのですが、よく調べていると、かなり論争の的、なのですね。

 バクテリオファージ、って、聞いたことがある人が多いと思います。これは、いってみれば、バクテリアに感染するウイルス。ウイルス、とは、宿主の細胞内でのみ増殖することが出来る『不完全生命体』であると以前説明しましたが、バクテリオファージは、バクテリアに感染するファージ=ウイルスなんです。
 で、ヴィロファージ、は、ウイルスに感染するファージ=ウイルス。ウイルスに感染するウイルス??

 このヴィロファージ、もともとは、これまでに発見されている中でも最大のウイルスであるミミウイルス、というウイルスが宿主であるアメーバに感染するのを邪魔するものとして発見されました。
 ミミウイルスは、その大きさゆえに最初はアメーバに感染するバクテリアか?と思われていたのですが、これが巨大ではあるけれどもその増殖には宿主の中に入らなければならず、細胞としての構造も持たない『ウイルス』であることが判明。
 その数年後に、今度は、このミミウイルスがアメーバに感染する過程を邪魔するものとして『スプートニク』という、ウイルスのようなものが発見されました。
 
 スプートニク、とは、ロシア語で『衛星=サテライト』という意味です。で、これを発見者はヴィロファージ=ウイルスに感染するウイルス、と分類して発表。

 おもしろいじゃん、と思ってしまいそうですが、ここに問題が。1960年代から、ウイルス学の世界にはすでに「サテライトウイルス」という広く受け入れられている概念があるのです。
 サテライトウイルスは、それ自身だけが宿主に入っても増殖することは出来ないのですが、衛星が中心とする惑星にあたるウイルス、ヘルパーウイルスがいてくれれば、その助けを借りて増殖できます。一方、ヘルパーウイルスのほうは、サテライトウイルスがいなくても立派に増殖できます。サテライトウイルスがいる場合は、種類によってヘルパーウイルスの増殖が促進される場合と、逆に阻害される場合があります。遺伝子配列から見てみると、サテライトウイルスは、ウイルスの増殖に必要な遺伝子を持っていないことがわかっています。つまり、構造的に見て、サテライトはヘルパーに全面的に頼らざるを得ないことが明らか。

 さて、一方で、ロシア語でのサテライト、であるスプートニク。
 スプートニクは、ミミウイルスの増殖を邪魔することがわかっています。
 また、スプートニク独自で宿主内での増殖は出来ないようです。ここまではサテライトと同じ。

 違いをあげようとすると、まず、スプートニクの遺伝子配列を調べると、ウイルスの増殖に必要そうな遺伝子はちゃんと存在する。つまり、スプートニク自身が『独立したウイルス』みたいに見える。また、スプートニクの分布を調べると、つねにミミウイルスが集まっているところに存在する。(サテライトとヘルパーの場合には、位置的な関係ははっきりとは見られない。)そのうえ、スプートニクがミミウイルスの「内部」に存在しているという顕微鏡写真も公開されています。

 とはいえ、世の中にはpseudogene=偽遺伝子というものがあります。これはつまり、配列としてはある機能をもつタンパク質をコードしそうな遺伝子に見えるが、実際はちゃんとタンパク質にまで作られないもの、のこと。配列を持っていても産物が出来なければ、その遺伝子を持っていないのと同じ、ですね。
 それに、分布が重なる、っていうのは、証拠としては弱い。お互いに依存性があるもの同士なんだから、近くに存在するのは当たり前な気が・・・・。とはいえ、スプートニクがミミウイルスの「中に」あるっていうのは、確かにあたかもミミウイルスに「感染している」ように見えますね。

 スプートニクの発見者は、これはサテライトウイルスではなくて、『ウイルスに感染するウイルス』、つまりヴィロファージという新しいカテゴリーのものだ!!と主張。これに対して、もう少し保守的な人々は、いや、スプートニクは、サテライトウイルスだ!!と主張。この、主張、というのはある有名な専門誌上のCommentaryの交換という方法でなされるのですが、ヴィロファージ派とサテライト派は、きわめて紳士的ながら互いに一歩も譲らず、自説を主張するコメントを交互に発表していました。いまでも、この議論は続いています。

・・・・・・わりあいに建設的ながら決定的な証拠を欠いている気味のある応酬を追っていた私は、だんだん、カレーライスとライスカレーの違いについての論争を聞いているような気がしてきてしまったのですが・・・・・・・と、第三者は気楽です。失礼。

 この論争、どうやったら終結できるかな?鍵は、スプートニクが持っている、『増殖に必要そうな遺伝子』が、本当にスプートニクの増殖に必要か否か、でしょう。つまり、この配列を破壊してやっても、スプートニクがミミウイルスによって増殖することが出来れば、これは偽遺伝子、つまりスプートニクはサテライト。逆に、この配列を破壊したらスプートニクが増殖できなくなれば、これはヴィロファージ。ただ、これを実験できっちり証明するのは結構難しいかも・・・・・。

 いろいろ思いをめぐらせましたが、ちょっとずれたところで気になるのは、実は、私たちが扱っているヘテロシグマアカシオウイルスは、このミミウイルスに似たものでして。
 ヘテロシグマアカシオウイルスにも、スプートニクみたいなのが見つかっちゃったら、この論争、ひとごととはいえなくなるかな?
・・・・・・う~~~ん。
 
 

 

 
 

2013年6月14日金曜日

田植えの季節

 先週から、鬱々と書き物をしておりましたが、気づいてみれば、岡山も南のほうは、今になって田植えの季節です。
 私の自宅の前にある田んぼも・・・・・倉敷って、ちょっと中心地を外れると、本当にたくさん田んぼがあります。そのせいでか、街に白鷺・五位鷺がいます。私の思い込みによると、すずめよりも鷺の数のほうが多いような・・・・・・・昨日から水が張られて、田植えが始まるのを待っています。

 そう、田んぼって、一年中水が張ってあるわけじゃないんですよね。田植えの時期から、必要な間だけ水が入って、水が必要がない時期は、水を抜いて普通に乾いた土になる。
・・・・べつに、都会っ子ではないのですが、実は、このことを、今の職場に着任するまで知らなかった、というか、きちんと意識したことがなかったんです。『農業研究所』所員にあるまじき発言ですが・・・・・。

 というわけで、5月はじめにれんげが咲いて、その後かわいらしくもたくましい園児たちの小さなあんよに踏みしだかれた研究所の田んぼも、綺麗に耕されました。そろそろ水が入るはず。
レンゲが咲いていたのと同じ圃場とは思えませんね。
きれいに耕されて、そろそろ水が入って田植えの季節。
  田んぼに水が入ると、研究所の敷地中どこでも、青い小さなアマガエルが見られるようになります。夕方になると鳴き声もする。
 歩いて5分で観光地(美観地区)、その後ろには、ちょっとした小山があって、斜面は緑色の雑木林。4月からいまごろまで、ときおり鶯が鳴いているのが聞こえるんです。冬の間は、研究棟に沿ってぎっしり植わっている山茶花の樹の横を通ると、ちゅくちゅくちゅく・・・・・と小さな声が聞こえるので、覗き込んでみると、メジロが数え切れないほどくっつきあって、さえずっていたり。
 こういう職場って、実はなかなかないのじゃないかなぁ、と思います。

 大都会の喧騒が廻りにないと生きていけない、というヒトには無理ですが、適当に緑があって、ほどほどに便利だけどのんびりした環境ってすき、という方には、ここは、職場として、学びの場としてなかなか、と思っています。

2013年6月7日金曜日

こんな週もある 

 今週は、書き物の週となりました。
 6月・7月中に締め切りがあるいくつかの研究費の申請書書きです。
 この時期、私にとって出しやすい研究費の申請締め切りが重なっており、去年のいまごろも似たネタでいくつも書いては出し書いては出し・・・・としていたのを思い出します。
 去年の数多い『書いては出し』の甲斐あって、去年終わりから研究費をある財団からいただいて、今の私たちのグループはそのおかげで回っています。というわけで、来年の『飯のタネ』となる研究費を獲得するために、今年もやはり書き続けるこのシーズンです。

 私がコンピューターの前に座っていじいじと書き物をしている間に、Hさんは、ヘテロシグマと共生している微生物の単離を続けてくれています。去年の今頃は、私が書き物をすれば、その間は全く何も進まなかった!ことを考えると、同僚がいてくれるというのは本当に本当にありがたいことです。

 そして、私たちの目には見えない強い味方。
 今、私たちのグループでは、公的サポートを受けたものと、自分の研究費から払ったものと、2種類の『外注実験』が動いています。公的サポートのほうは公募に申請して、承認されれば私たちの研究に必要な材料を準備していただけるというもの。自分の研究費から払ったものは、例の、ヘテロシグマの遺伝子配列を解読する、というものです。
 
 実験、というのは、「自分の手を使う」もの、というのは、以前は鉄板の常識でした。でも、近年、実験をアウトソーシングできるようになってまいりました。これ、うまく使えば、本当に便利。大学においても、すでに研究という活動に欠かすことのできないモノになっていると思います。

 『外注のよさ』は幾つもあります。
 まず、めったにしないような実験を自分でするには、実験技術の習得とその実験に必要な設備が必要ですが、外注の場合、あちらはその技術に習熟したプロ。当然、ある程度以上の技術が保障されている(はずです)ので、結果がほぼ確実に期待できる(はず)。
 そして、省・時間と省・労力、これが大きい。煎じ詰めれば、仕事を外注する一番のメリットは、『自分がその仕事をしなくてすむ』ことではなく、『空いた時間で、研究を進める上で、自分にしかできないことが可能になる』ということでしょう。
 というわけで、外注を頼むことであけた時間で、私は来年以降のための「カネ稼ぎ」これは、今のグループ構成では私にしかできません。

 だれでも、手は2本しかないし、手を動かしている間は、書き物は止まる。となると、私たちのような極小グループが結果を出して自分たちの地位を確立していくためには、自分たちが日々働くのとは別に、水面下で着々と物事が進んでいるというのはなかなか心強いことです。自分たちの手と頭は、自分たちが本当にやりたいこと・考えたいことをするためにとっておく。そして、その間私たちの見えないところで、次にやりたいことの下敷きになるような作業が外注で進んでいく、というのは、確かに効率がいい。とはいえ、多くの場合、外注実験は結構な費用が掛かります。

 というわけで、このスタイルを来年も維持したいと思えば、そう、来年度分のまとまった研究費がやっぱり必要なのでした。

 ・・・・・・・・・書かなければ!