2013年9月6日金曜日

おもしろいいきものたち

 今週水曜日と木曜日は、神戸で開かれたNGS現場の会という研究会に出席してまいりました。
 NGS=Next Generation Sequencing、つまり次世代シーケンス技術を用いる仕事をしている人たちのための研究会です。
 遺伝子配列解読技術は、ここ数年信じられないほど進歩しました。
 つい最近まで、「ゲノムプロジェクト」っていう言葉を聞きましたよね。ヒトゲノムプロジェクト、とか。これは、つまり、ヒトのゲノム=遺伝子配列を解読しよう!というプロジェクト。欧米豪日多くの国が参加して、多額の資金と当時で最先端の技術を投入し、さらに数え切れないほどの優れた人材が参加しての国際プロジェクトとして運営され、長い年月をつかってやっとのことでヒトの全遺伝子配列が解読されたわけです。
 ところが、今では、一台の機械と(とはいえ、高いものでは一台一億円ぐらいするらしいですが)、二人ぐらいの熟練した技術者、そして一人の優れた情報処理専門家がいれば、一人の人間の遺伝子ぐらいなら、数週間もあれば解読できてしまう。
 以前と今のこの差は、つまり『次世代シーケンス技術』で可能になったわけです。
 次世代、といいながら、すっかり現世代の技術になってしまったこの技術の可能な応用方法・情報を仕入れたいときの情報源、どんな機器を使ってどのような点に注意して研究計画を立てればいいか、技術開発はどんな方向に進んでいるか・・・・ということについて、知識を仕入れようと思ったら、一番早いのはよく知っている人々に教わること。わたしにとっては、とても有益な2日間でした。

 情報を仕入れる、という、大きな目標にくわえて、学会の楽しみは、『知らない人にあって話をする』ことです。自分が考えたこともないことを考え、目からうろこなアプローチで生物の研究をしている人たちの話を聞くのは、単純に、たのしい。

 NGSをつかえば、けっこうな長さの遺伝子配列を少人数である程度の資金(せいぜい200万円ぐらい?)があれば解読できるわけですが、これは裏を返せば、今までに遺伝子配列が知られていない生物に目をつけて、その遺伝子を読むことによって、他の誰も研究していない生物の分子生物学的研究を行うことが可能になったわけです。
 わたしの『ヘテロシグマプロジェクト』も、NGSのおかげではじめようとおもいついたわけですが、この会に出てみると、いるわいるわ、チョウの『行動』決定因子についての研究、昆虫の擬態について、生育環境で形が変わる両生類、イカはなぜ頭がいいか(学習能力があるのか)、食虫植物の捕食戦略、ほかにも、コケ、アユ、ウナギ、アブラムシ、カラス・・・・・・・。

 これまでは、遺伝子配列が知られている大腸菌だの酵母だのマウスだのシロイヌナズナだの、という限られた種類の生物が研究の材料としてつかわれてきたのですが、考えてみれば、「おもしろいいきもの」は、そこいら中に、いっぱいいますよね。『教科書に載っている実験材料生物』だけを使い続ける理由は、NGSのおかげでなくなりつつあるわけです。

 こういう話は、学会会場で伺うのも楽しいのですが、懇親会とそのあとの2次会でざっくばらんにおしゃべりをするのが一番です。というわけで、「夜の部」もしっかり楽しんだ『研究会』でした。
 

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