2013年10月25日金曜日

IPSR Assembly: 所内発表会

 日本の研究者にとって、秋は、食欲よりも芸術よりも「申請書」の季節。
 そう、来年度からの科学研究費補助金を獲得するために、研究計画を申請書として仕上げるシーズンです。
 こんなことがやりたい、あんなことが知りたい、は研究の原動力ですが、それらを行動に移すには、そう、おカネがいるんですよね。
 というわけで、研究費を獲得するために、「自分の研究を、なるべく面白く、わかりやすく、決められた紙面にきっちりおさめてアピールする」ために日夜頭を絞る毎日です。

 という、肩に力が入る時期ですが、今週は、当研究所年に一度の内部発表会「IPSR Assembly」が開催されました。研究グループごとに、短時間ではありますが、口頭発表で自分たちの研究の概略を説明して、所内の交流を深めよう、というもの。
 実行委員の方々が何週間も前からスケジュール調整等をしてくださって、当日は、すべてのグループが、現在どんな研究をしているかを、グループの所属人数に従った時間配分で発表しました。

 残念ながら、ランチスペースなどの共有スペースがない当研究所、メンバー同士の交流が結構難しかったりします。
 でも、こういう風に研究発表会をおこなうと、2年以上ここにいても、あいさつを交わすぐらいしか接触のなかった方々とでも、いろんな話題が広がって楽しいものです。
 また、若手教官の一人が、特に学生さんたちに参加してほしいと、「お昼ご飯を食べながら、おしゃべりしましょう」という会を企画してくださり、これにも結構な人数が参加しました。とくに、学生さんたちは、研究所に入ってくると同時にそれぞれの研究グループにどっぷりの生活が始まり、他のラボのメンバーとは、話をする機会すらない、ということになりがちですので、とにかく気楽に集まっておしゃべり、というのは大変良い機会でした。

 一日楽しく過ごして、それにしても、どうして今までこういうことがなかったのかな?と首をひねっていたのですが、いえ、去年も一昨年も、この会はちゃんと開催されたのです。
 ただ、私が出張で出席できなかったのでした!
 というわけで、3年目にして、初の所内発表会、とても楽しみました。
 

2013年10月18日金曜日

学生さん向け記事:大学院進学から研究職、のあいだの道筋あれこれ (3)

 先週で終わったつもりだった記事ですが、重要なことを書きそびれていたことに気が付きました。
 「そもそも、私たち(=講師陣)は、なんでここ(=大学という研究の場)にいるの?」

 最初にも書いたように、この授業(というか緩めの座談会)は、大学院修士1年生の学生さんに、「研究生活の楽しさや厳しさなど、公式な場で聞くのはむずかしいような話題も含めて腹を割って話し、アカデミックキャリアに対するイメージを持ってもらう」ために企画した、とのことでした。

 で、授業前の、コーディネーターのM先生とのメール打ち合わせは以下の通り。ほとんど原文のまま、無断で公開。M先生、スミマセン(笑)。


私:(昨今の博士取得者の就職難などを目にするにつけ)やはり、学生さんたちには、博士号を取った後の厳しさについてわかってもらうことはとても大切ですよね。

M先生:私たち(M先生と、『元刀鍛冶志望』先生です)も、最初はそう思っていました。しかし、アンケートの結果を見ると、実はほとんどの学生さんたちは、私達が思っている以上に現実的で過剰なまでにアカデミックキャリアに失望しています。実際、今回の受講生も(講義の前にアンケートを取りますが)、ほとんど博士課程に進む気はないと思います。
 というわけで、私達がやる講義は、むしろアカデミックキャリアを厳しいながらもなぜ私達が選んでいるのかという、ロマンを吹くことになると思います。

 とのことでした。

 いいですね。本当だったらそういう『楽しさ』の話がしたいです、やっぱり。

 というわけで、講師陣が話すお題の中には、当然ながら、『この仕事についてよかったと思うことはなんですか?』という質問が盛り込まれておりました。

 で、その講義の場で出た、皆さんのお答えは?
 ・・・・・・「裁量労働制で、働く時間に融通が利くので、共働きで子供が小さい時にはとてもよかったと思った」、「裁量労働制だから、平日に休みを取って子供の授業参観に出れたとき、よかったとおもった」。

 ・・・・・・う~~む。それは、この『立場』でよかったこと、ですね。
 家族思いは素晴らしいことですが、韜晦趣味がある人たちがそろってしまったらしい。
 うぉい、ロマンはどこに行った??

 たとえば、顕微鏡をのぞいていて、「?!」というものがみえちゃったり。
 数多くの測定をして得られた数字の羅列を統計処理をしてグラフにプロットしたら、実験処理による差が忽然と明確に現れたり。
 実験をするたびに予想外の結果が出て、「・・・・・なんでかな?」と首をひねっていたら、あるとき「!」とその理由を見出してしまったり。

 その前の試行錯誤が地味で時間がかかるものであるほど、「おっ!」と思う時のよろこびは大きく、それが楽しいから足が洗えなくなったから、こういう稼業にはまってしまったのですね、われわれは。

 最初のM先生のセリフ、『ロマンを吹く』は、これだけ読むと足が地についていない人たちみたいですが、実際のところ、小さな発見の積み重ね、地味な試行錯誤の積み重ねが、『生命』だの、『自然』だのといった、大きな図を読み解くパズルの一ピースになることに、面白さと意義深さと・・・・それこそ、『ロマン』を見出しちゃったんですよね。そして、そういう謎解きを心ゆくまで続けようと思ったら、やはり一番向いているのは大学。テーマ選択の自由は、手放せないわけです。
 というわけで、あんまり高くないお給料でも、休日も半分以上は仕事につぎ込むことになっても、あるいは身分が不安定な時期が長くても、やっぱりやめられない研究生活@大学、となっちゃったわけです。

 と、本当はあの場で披露されるはずの『隠された共通見解』を勝手に暴露させていただきました。実は、これが一番重要だったりして・・・・。


 ******************

 ところで。このシリーズの(1)を読み直してみたら、「この講義がそもそもどのような目的で行われたか」、という、肝心要の部分が抜けていることに気が付いて、赤面いたしました。というわけで、導入部分を書き足しました。いつも読んでくださる皆様、失礼いたしました!今後ともよろしくお願いいたします。

2013年10月11日金曜日

学生さん向け記事:大学院進学から研究職、のあいだの道筋あれこれ(2)

 前週に続いて、理系キャリアあれこれ、です。前半はこちら

 今週は、③留学について。
 留学してみたいと思いますか?という問いに対して多かった答えが、「してみたいけど、経済的に無理」「研究を始めた今、留学は考えていない」というものでした。
 修士1年の学生さんたちが、留学、ときくと、思い浮かぶのは、「語学留学」なんですね。
 
 そもそもの、「留学」という表現に誤解の下があるようです。留『学』なのだから、学費は払うよね=経済力要りそうだなぁ、でも、研究は日本でも学べるし、という感じでしょうか。
 
 博士を取った人間が、留学=海外に行く、というと、海外に行ってポスドク=Postdoctoral fellowとして給料をもらって『働く』、というのが普通です。つまり、博士という学位で自分の能力の証明し、それ以降の武者修行を海外でしよう、というのが、博士号を持つ人間の留学。
 高給取りとは決して言えませんが、お給料は、もらえるんです。(先週話に出た、「日本学術振興会」に、渡航費及び海外で滞在するための費用+研究活動費をサポートする「海外特別研究員制度」というものもあります。これだと、受け入れ先研究者にお給料の心配をかけないので、受け入れる側も大喜びだったりします。)

 そして、留学期間中、身につけたい一番の力は、語学力ではなくて、研究する力。並行して、『実績を上げる』=発表論文数を増やす、というのも大きな目標の一つです。

 語学力ももちろん付きますが、重きを置くのはそこじゃない、ということですね。

 留学先としてポピュラーなのは、やはりコトバが一番なじみがある英語圏の国でしょう。科学に携わる者の、仕事で使う言語は、主に英語です。論文読むのも書くのも英語。国際学会で発表するのも、当然英語。というわけで、研究して実績を上げるついでに英語の力もつけたい、とおもえば、理にかなった選択といえます。研究をしに留学する、ということは、研究環境がととのっていて、投下される資金も大きいところに行きたい。となると、やはり米国に留学する研究者が一番多いのもうなずけます。
 それ以外ならば他のヨーロッパ諸国・・・・とくに、いわゆる西欧・・・・・・に留学する人が多いと思います。

 昔々は、留学すると『箔が付く』とされていましたが、最近は、留学する人間があまりに多いのでそういう感じはなくなってきました。むしろ、一度海外に出てしまい、帰ってきたいのに仕事の口が見つからない、という話も聞きます。
 日本人のほとんどが、ゆくゆくは日本に帰りたい、と思いがち、というところがあり、そういう意味では、留学によって就職活動の際の『地の利』を失う、というデメリットがあるのも確かです。

 とはいえ、研究者の多くが留学経験を持ち、行ってよかった、と思っているようです。で、よかった理由として多いのは、よき指導者との出会い、そして、設備・体制などの理由で研究がしやすかったから、というのが一般的なのではないかとおもいます。

 (留学については、そのうち私個人の経験と見解を書かせていただこうと思います。)
 ***************** ***************** ***************** *****************
 などなどが、『先進コース 理系研究者のキャリアとは』の主なものでした。

 もっと砕けた話題として、大学教官(=お給料あんまり高くない、研究ばっかりしている、というイメージがあるから)になんかなっちゃったら、結婚したり家庭もったりできるんだろうか?という疑問が学生さんからよく出るのだそうですが、これに対する一番良い答は『当日講師として出席した方のほとんどはご家庭もち』という事実でしょうか。
 というわけで、これは個人のこころがけと努力次第、という感じですね♪

 また、この仕事につかなかったら他にどんな仕事につきたかった?という質問があったのですが、これに対してのお答はまちまち。
 ずっと研究者になりたかった、という人もいれば、う~~ん、なんだったかな、という人もいたなかで、印象的だったお答えは、「刀鍛冶」。
 これ、わかるような気がしました。自分の世界にどっぷり入ってなにかを究める、っていう印象。こういう人は、骨の髄から研究に向いているんだろうな、というのが、私の感想です。(とはいえ、ご本人は、本職の刀鍛冶のお話をうかがって、あんまりに大変そうだからやめた、とおっしゃっていました。たしかに、現実離れした職業ではありますよね。)

 ちなみに、私自身の答えは、「・・・う~~ん、手を動かすのと文章書くことが仕事の中に入っている職種がいいなぁ、とおもったら、こうなった・・・・」です。もう少し格好いいことが言えないのがザンネン、です。

2013年10月4日金曜日

学生さん向け記事:大学院進学から研究職、のあいだの道筋あれこれ(1)

 そもそも、このブログは、大学院進学を目指している学生さんがみてくれないかな、あわよくば、ここで研究してみたい、と思って新メンバーとして加わってもらえたらいいなぁ、という、下ゴゴロがあってはじめたものです。
 その割には、学生さんの役に立ちそうな情報は、何も書いていない気が・・・・・。

 というわけで、今回は、夏休みの先進コース集中講義『大学の研究者としてのキャリアパスとは』で出てきた話題についてです。タイトルからして、「学生さん、読んで!読んで!!」感満載な記事ですが、それはさておき。

  この集中講義の目的は、修士1年生の学生さんたちに、大学で研究する人生とは?全般についてのイメージを持ってもらおう、というもの。
 大学で研究する人生を選んだ人間たちは、どのようにして、大学で研究するポストにいたり、どのような気持ちでそこに居続けているか、は、その外にいる人たちには結構わかりにくいらしい・・・・・ことから、実際に大学で研究する人生を選んで生きている人々=大学教官比較的若手数人(准教授が4名、助教(私です)1名)がざっくばらんにおしゃべりするのを学生さんたちに聞いてもらって、感触をつかんでもらう、という目的で行っているものです。

 他4名は男性・准教授ばかりだったのですが、とりあえず女性の意見も聞きたい、ということと、「ざっくばらん」に話をしそう、に見えるらしく(そのとおりですが)私も呼んでいただけたということのようでした。(青字にしてある部分は、10月17日に書き足した部分です。少しは分かりやすくなったでしょうか・・・・?)

 さて、この集中講義に先立って、取りまとめ役の先生が、受講する学生さんたちにアンケートを実施してくださいました。そのうち3点について
①博士課程(後期)進学についてどのようなイメージを持っているか?
②研究職になるつもりはあるか、あるとしてどのようなキャリアパス(企業・研究所・大学など)を考えているか?
③海外留学を考えているか?

①博士課程進学のイメージ、について多かった学生さんたちの答えは、「企業に行きたい人よりも、大学に残りたい人が進むイメージが強い」でした。出席していた講師陣は2名工学系、3名バイオ基礎系だったのですが、講師の間で一致したのは、「特に工学系は、博士取得後に企業に就職する人が結構いる」。当然、大学院時代に研究していたテーマによって、企業に職を得やすい人とそうでない人にわかれそうではあります。また、バイオ基礎系でも、企業に職を見つける人がいます。博士課程進学=アカデミアに固定、というわけではないのですね。

 一般企業への就職の可能性が狭まりそう、という学生さんの意見もありましたが、これに対しても、講師陣はそうでもないかな、ぐらいで一致。ただ、研究以外の業種への可能性はやはり狭まるかもしれないですね。

 博士をとればその道のプロになれそう、という意見もあったのですが、これは、「プロになるための入り口が博士課程と博士取得。免許取得みたいなもので、本当にプロになるならば、その後の経験が必要」で講師陣が完全に一致しました。

 そう、自嘲的な表現で、「博士号は足の裏についた米粒と同じ。とってもくえない」という言い回しが昔からあります。初めて聞いた時は、半秒ぐらいぎょっとしました。でも、考えてみれば、どんな資格でも、『取っただけで食える』なんてものはそもそもございません。ステイタスが高いとされる医師免許にしても弁護士免許にしても、免許取得はその業界への入場券にすぎません。その業界に入ってしまったら、見渡す限りみんなが持っているその免許。極端な言い方をすれば、その時点で免許はもっていなくちゃいけない紙切れ。そこである程度の仕事をして認知されて食べていこうとおもえば、免許取得までの人生よりもずっと長い間のOn the Job Trainingが不可欠なわけです。博士号も例外ではない、というだけの話です。

②研究職につきたいと思うか?という問いには、多くの学生さんが『企業の研究職につきたい』とこたえています。これは、やはりお給料と安定性が頭にあるようです。博士というと、万年研究室にこもって、金欠な印象、という人もいましたし、大学人=お金がない、は、昔から変わらない通念のようです。

 ま、公立大学人のお給料は、高くはないですね。最近、国家公務員の給与が削られましたが、国立大学の教官もしっかり削っていただきました。高給がとりたければプライベートセクターへ、は、事実といっていいでしょう。ただ、どうしようもない低賃金でもないですね。

 職に就いてからも問題ですが、何人かの学生さんたちのコメントから講師陣が特に感じ取ったのは、「博士課程に行くには、その間の経済的負担が大きすぎる」ということでした。

 実は、最近の多くの大学院で、RA制度というのがあります。Research Assistantの略ですが、学生という身分でも研究室のプロジェクトの一端を担って研究しているわけで、これに対して人件費が支払われるというもの。つまり、大学院生をしながら、お給料がもらえる場合があるわけですね。また、大学院の早い時期に自分の名前が入った論文を発表できれば、「日本学術振興会特別研究員」になれる可能性が高くなります(リンクはこちら)。これは、研究課題を申請(=応募)して、研究員としてお給料と多少の研究費がもらえるというもの。応募したからともらえる、というわけではなくて厳正な審査がありますが、これに通れば、生活費+研究費が出る上に、履歴書に書けば実績として評価されるというものです

 学生として博士課程で研究をしながら、生計を立てる方法は、実はちゃんと存在しているんですね。こういう情報が、あまりいきわたっていないようです。「博士課程にはいきたいが、家庭の経済状況でムリ」と考えている方にはぜひとも考慮していただきたい方法です。

長くなるので来週に続きます。読んでくださった学生さん、是非来週も読んでくださいね(笑)