2015年6月26日金曜日

最近、反省したこと。

 最近、しみじみと考え直したことがあります。

 実験のコストについて。

 人生で初めて新しく研究グループを立ち上げる機会に恵まれた人は、研究費をとってくること&苦労して獲得した研究費をどう使うかの2点について、初めて真剣に思いを巡らせることになります(……勢い、このブログもそんな話ばかりで恐縮です)。

 私自身は、初めて自分で研究資金を外部からいただいときに、ささやかな決心をしました。いわく、
 『お金を節約するために、時間を犠牲にするのは(可能な限り)やめる』
 
 研究資金が潤沢であれば、ほぼなんでも買える。時短キットも時短グッズも、人手も。外部委託して実験結果を買う、ということすらもできる。

 でも、『何があっても買えないもの』が、ただ一つだけ、あります。

 それは、『過ぎ去った』時間。これだけは、買い戻しがきかないですよね。
 長らくポスドクをしながら、身にしみて学んだことでした。
 逆に、研究費を節約するために時間を犠牲にするぐらいならば、研究費を使って買った時間を次の研究資金獲得に当てればよい。
 新米PIには極端な決心ではあれど、後から考えれば正解だったと思います。下手の鉄砲も、撃ち続ければ少しずつあたるようになるのも、本当です。
 というわけで、ほそぼそと予算獲得を続ける一方で、極めて順調に予算は消化、仕事の道具立てもそろって参りました。

 で、ずっとこの路線でいこうかな、と思いかけていた頃に、とあるセミナーを聴きました。

 ある若手研究者が、大型予算をとって、網羅的遺伝子解析をじゃんじゃんやろうと思ったけれど、その手の研究にかかるコストって、どうしたって高い。大型予算を持ってしても、できることには限りがある。
 そこで、その人は、実験にかかるコストを、ご本人の表現を借りれば『爪に火をともす用にして』切り詰めるためのプロトコールを開発し、それによって一つ一つの実験のコストを数分の1にまで切り詰めたのだそうです。
 何故かといえば、その『爪に火プロトコール』を使えば、同じお金で、数倍の解析ができる。よって、より多くのデータが得られ、より厚みのある知見が得られる。

 …当たり前、といえば当たり前。しかし、『より多く使うために、より多く穫ってくる』と呪文のように心で唱え続けていた私にしてみれば、目から鱗、なお話でした。

 そりゃそうだ。同じ穫ってきた研究費ならば、有効に使った方がいい。 
『建設的にケチらなければ、できることもできなくなる』というあたり前のことに、やっとのことで気がついた...というよりも、やっとそういう気の回し方が意味を持つステージに達した、ということでしょうか。

 現在、とにかく多数のRT-PCRをかける、という実験に明け暮れているのですが。
 あれもやりたい、これもしたいと思えど、常にそれを制限してくれる忌々しいファクターは、実験のコスト。
 PCR 8連チューブ一つでRT-PCRをかけるのに、何回分注が必要で=いくつのチップを使って、異なる反応サイズでどのぐらいの酵素を使うことになって…、と今まで【意識的に見逃す】ことにしていた、一回の実験のコストを計算すると、これは、確かに、ケチらないと!と危機感が。
 とりあえず、破格キャンペーン商品を買い漁って、さらにスケールダウンの道を探っています。
 

 

 

 

 
 

2015年6月19日金曜日

自分の目で見てみると

 先週、初めて遭遇したヘテロシグマ赤潮。

 印象に残ったのは、まず、強烈に茶色いこと。
 そして、その茶色が、「むら」になっていること。
フィールドとしているのは、防波堤の内側に四角く囲われた形になっている桟橋、つまり、外海(といっても、瀬戸内海ですが)と繋がってはいるものの、外からの波が直接打ち寄せないような場所です。
 とはいえ、潮の満ち引きはちゃんとあり、同じ時間に到着しても、日によって海面の高さが多少違う。
 波打ち際のように、『うちよせてくる』訳ではないのですが、それでも、ちゃぽんちゃぽんと海面は揺れています。いわゆる、湖よりはかき回されている感じ。

 それでも、ヘテロシグマは、ちょうど雲のように漠然と寄り集まっていて、そうそう簡単には散らされないようです。

 そういえば、海底から1メートル程度の場所には、ヘテロシグマはほとんどいないのだそうです。お昼間はほとんどが海面に寄り集まっている。海の水って、海水温と塩強度の具合で、層状に分かれているのだそうで、たとえば、雨が降って海水面の塩強度が下がっても、海底は影響を受けにくいし、また、海水表面付近の水温は気温につれて高くなっても、海底近くの海水温は非常に変わりにくい。同じ場所でも、高さによって、じつはかなり環境に違いがある訳ですね。

 そして、ヘテロシグマが沢山いる部分は、海水の動きが、いかにも、トロッと粘稠性が高そうに見えます。なんとなく、さらさらした海水にとろっとした茶色い液体の『島』がある感じ。
 実験室で、フラスコでヘテロシグマを飼っても、こういうことはないのになあ。

 …と思っていたのですが、海でとってきたヘテロシグマを、いつも培養に使っている人工海水に希釈して培養し、次の日にインキュベーターのドアを開けてみたら、あら、びっくりするほど塊まって泳いでる…!
 急いでいるときに見たので、そのままにしてしまったのですが、写真を撮っておくべきでした。痛恨。

 赤潮は、増えることは増えるけど、それだけじゃなくて寄り集まるからあれだけ赤くなるんだ、という意見は聞いたことがあったのですが…。でも、なぜ、フィールドのヘテロシグマ『だけ』が寄り集まりたがって、長期にわたって培養されているヘテロシグマはそういう挙動を示さないのだ?

 うっふっふ、これについては、ちょっとアイディアがあります。面白そう。
 というわけで、1週間以上にわたる重労働、報われることを願って、検証実験を始めます♪

 

2015年6月12日金曜日

恥ずかしながら

 初めて見ました。

 ヘテロシグマ赤潮!

 ミクロン単位の大きさの単細胞藻であるヘテロシグマが急激に増殖すると、空からでも視認可能な『赤潮』というマクロな現象を引き起こす。その後、ウイルス感染により急速に死滅、赤潮は消滅して青い海に戻る。自然界にこれだけ分かりやすくダイナミックな現象って少ないんじゃないでしょうか。

 ヘテロシグマの研究を始めよう、と思ったのは、この分かりやすさ・ダイナミックさに惹かれた故、といいながら、、私は、実験室での実験ばかりしていて、そもそもの『赤潮』は、テレビ中継や写真でしか見たことが無かったのです。
 これからは、やはり環境からのサンプリングと、その解析も搦めて研究してみたい。
 などといいながら、去年は、共同研究者に、赤潮がでたらサンプル送ってくださいとお願いするという生温いことをやっていました。
 そして、去年はなぜか、ヘテロシグマ赤潮はでなかった…。

 こういう心がけはよくないですね。

 今年は、現場での採水に立ち会って、貰い受けた海水をラボに戻ってフィルター濾過してサンプル集めをしよう、とココロに決めたのが、この4月。
 去年に引き続いて、共同研究者となっていただいている水産総合研究センターのN研究員にお願いして、6月初めにサンプリングの要領をみせていただいて、その後、赤潮がでたら本格的に対応できるようにしよう、と、腹をくくりました。

 プランクトン捕集に必要なフィルターを数種類揃え、こまごました道具も揃え、強いバキュームも買い込み、用意は万全、のつもり。手始めに、赤潮がでていない海のサンプルを『定常時』として採集するつもりで約束したのですが。

 なんと、その前日に、地元の漁協関係者から、『海が赤くなってきた』と連絡が入ったとのこと。
 ええ?そんなにタイミングよく行くかな??と驚きながら現場に向かったところ、
 なんと!!!
 
海水表面が、茶色くむらになっています。これぞ赤潮!
なんとなく、トロッとしていそうにも見えます。
素人目にも、あらら、と思うぐらい、海水が着色しています。 
 去年は全くでなかったことを考えると、なんというタイミングのよさ。
 赤潮、と一言にいっても、いろいろな藻類が原因となる赤潮があるのですが、Nさんが調べてくださったところ、これは立派にヘテロシグマ赤潮でした。
 引きが強い、とほめていただきました(笑。

 というわけで、火曜日に思わぬ儲け物で本格サンプリングの後、水・木・金、一日とんで、日曜日にもサンプリング。さらに翌週、もう2〜3回サンプリングの予定です。採水はNさんのおかげで実に手早いのですが、海水を合計5リットル近く抱えてかえるのがかなり辛いのと、帰ってからの作業が結構長い。
 とはいえ、これの解析結果は楽しみで、気分があがります♪

 しか〜し。
 作業をすることで、実験の新しいアイディアも湧いてきた。しかも、本当は、定常時→出懸かったかな?→増えてる増えてる→ピーク→衰退期→定常状態、という各段階のサンプルがそろえば理想的、なのが、今回はいきなりピークに近いところからしかサンプルがそろわなかったな…と思うと。
 もう一度ヘテロシグマ赤潮が発生したら、最初からもう少し丁寧にサンプリングしたい気がしてきます。
 もう一回、この生活か、大変だな〜、とひるむ気持ちはあれど、いや、完璧を目指してもう一度チャンスを狙うか?という気持ちも強い。
 赤潮は、発生しない方が周辺水域のコンディションのためには望ましいのですが…。
 万が一でたら、チャンスを生かさないとね、と、必要な消耗品リストをチェックしております。
 

2015年6月5日金曜日

とうとう竣工式

 新棟、とうとう出来上がり…実は結構時間はたったのですが、6月3日に竣工式が行われました。
 学外からのお客さまにもおいでいただき、式典が行われました。

 
テープカット!この写真では分かりませんが、所員全員が建物正面に
集まって見守っていました。

 いやはや、去年の4月に引っ越しをしてから1年2ヶ月、最初のころは『??ちゃんと新棟が建つのかな??』などと思っていましたが、古い建物の解体が終了してからは実に速かった。
 今の新しい建物を見ると、昔の建物が思い出せません。
 たった一年前なのに…。


 以前は、ソテツを前に写真を撮ると、2階建の大部分が隠れてしまうような高さだったのに、三階だてになるとずいぶん存在感が大きくなりました。
 この新棟は、倉敷中央通りに面しているのですが、今後は、その後ろに隠れている1号館と2号館の改築が始まります。両方終わるのは来年3月。それまで、しばらく落ち着かない生活が続きます。
 とはいえ、全て終わったら、文字通り新生植物研改めてスタート!あと1年のがんばりですね。

 ところで。
 私は、どうしても、去年の100周年記念式典が終わったときに『あ、一世紀に一度のイベントが終わっちゃった…』と脱力感を覚えたことを思い出してしまうのですが。

 所長から所員全員に送られた、竣工式への案内のメッセージに、『新しい建物で101年目のスタートを切れることについて、是非みんなでお祝いしたいと思います。』とありました。
 とても当然のことながら、去年が100周年ならば、今年は101周年、つまり、新世紀のスタートなのですね。先日の圃場の101の文字とともに、なんだか前向き!な気持ちになったメッセージでした。